札幌の弁護士による相続・遺産分割相談

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改正相続法を知ろう!

                                 弁護士・北海道大学名誉教授 吉田克己

 

連載第10回 その他その1:法定相続分を超える財産の取得

 この連載では、最初に配偶者保護を強化するための諸方策を取り上げ、次いで遺言活用を促進する諸方策について取り上げました。今回からは、それら以外の改正で重要なものを取り上げます。今回は、法定相続分を超える財産を取得する場合に、その取得を第三者に対抗するためにはその登記が必要かという問題を取り上げます。

 

【問題の所在】

 設例を出して、どのようなところに問題があるかを確認しておきます。最初に見るのは、今回の論点ではなく、法定相続分での財産取得を第三者に対抗するために登記が必要かという問題です。

設例1

 Aが被相続人、その子であるBとCが相続人だとします。相続財産は、甲不動産のほか預金債権があったとします。BとCは、各2分の1の法定相続分を持っていますので、この割合でAの相続財産を相続します。したがって、甲不動産も、各2分の1の割合でABの共有(遺産共有)に属することになります。

ところが、Bは、書類を偽造するなどして甲不動産について自己の単独名義での登記を行い、これをDに譲渡し、移転登記も経由しました。問題は、CがDに対して、甲不動産に関して自分が2分の1の共有持分を持っていることを主張することができるか、です。

 

 この設例では、法定相続分で財産を取得する場合に、それを登記しないと第三者に対して法定相続分での財産取得を対抗することができるかが論点となります。

この論点に関しては、判例は、登記不要という解決を採用しています(最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁)。ですから、設例に即して言いますと、Cは、Dに対して、甲不動産に関して自分が2分の1の共有持分を持っていることを主張することができることになります。その理由としてこの判決は、「Bの登記はCの持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果DもCの持分に関する限りその権利を取得するに出ないからである」旨を述べています。つまり、無権利法理=登記不要というのが、法定相続分に基づく財産取得に関する判例の立場です。

乙土地がCの所有に属する場合、無権利者BがCの登記を自分に移してDに乙土地を譲渡しても、Dもまた無権利者であり、Cは、登記がなくても自分が所有者であるということをDに対して主張することができます。この結論に異論の余地はありません。設例のCの持分に関する限り、これと同様だというのが判例の立場であるわけです。

 

 今回取り上げる論点は、これと異なり、法定相続分を超える財産の取得に関わります。次のような場合です。

設例2 設例1前半と事実が同一で、今度は、被相続人Aが、甲不動産をBに「相続させる」旨の遺言(改正法では、「特定財産承継遺言」という呼称を与えられています。民法1014条2項)を残していたとします。この場合には、Cは、甲不動産については共有持分を持たないことになります。

ところが、Cの債権者Dは、Bがこの遺言に基づいて甲不動産に関する所有権移転登記を経由する前に、甲不動産についてはCに代位してBC共有の相続登記を行い、Cの2分の1の共有持分を差し押さえてきました。Bは、登記がなくても、「相続させる」旨の遺言に基づいて自分が甲不動産の所有権全部を取得したことをDに対して対抗することができるでしょうか。できるとなると、Dが行った差し押さえは空振りということになります。Bが法定相続分については登記がなくても第三者に対抗することができることは、設例1の判例で示されています。問題は、設例2におけるBの取得は、法定相続分を超える財産取得であることです。

 

 この問題の解決が、これまでの判例だとどうなるか、そして、改正法だとどうなるかは、後に述べます。ここでは、今回取り上げる論点がどのようなものかをよくつかんでおいて下さい。

 

【判例による解決】

 以下、関連する問題について判例がどのような解決を与えているかを見ておきます。羅列的な記述になり退屈かもしれませんが、お許しください。

1 相続分指定と登記

 日本民法は、遺言によって法定相続分とは異なる相続分を定めることを認めています(902条1項)。たとえば、設例1の前半と事実は同一で、被相続人AがBの相続分を4分の3にするという遺言を残していたような場合です。この場合には、Cの共有持分は4分の1となります。ところが、Bが4分の3の共有持分を登記する前に、Cの債権者DがCに代位して甲不動産についてBC持分各2分の1の相続登記を行い、Cの2分の1の共有持分を差し押さえてきたとします。この場合に、Bは、法定相続分を超える部分についても登記なしにDに対抗できるかが問題になります。

 この場合にも、法定相続分の場合(設例1)と同様に、無権利法理が採用され、Bは、4分の3の共有持分の存在をDに対して対抗できるというのが判例の立場です(最判平成5年7月19日家月46巻5号23頁)。したがって、Dの差押えは、Cの指定相続分である4分の1の限度で有効ということになります。

 

2 相続放棄と登記

 設例1の前半と事実は同一で、今度は、Cが相続を放棄したとします。そうしますと、Cは、始めから相続人ではなかったものとみなされます(939条)。したがって、甲不動産については、Bが全部の所有権を取得することになるわけです。ところが、Bが甲不動産について所有権取得の登記をする前に、Cの債権者DがCに代位して甲不動産の相続登記(BC2分の1の共有)をした上で、Cの法定相続分2分の1についてこれを差し押さえてきたとします。ここでは、BがCの相続放棄によって甲不動産の所有権を承継したことを、登記なしにDに対抗することができるかが問題になります。

 判例は、この場合についても無権利法理を採用し、Bは、相続による甲不動産の取得を登記がなくても第三者Dに主張することができるとしています(最判昭和42年1月20日民集21巻1号16頁)。

 

3 遺贈と登記

 設例1の前半と事実は同一で、今度は、AがBに甲不動産を遺贈していたとします。これまでの例と同様に、Cの債権者DがCに代位して相続登記を行った上で、Cの共有持分を差し押さえてきたらどうなるでしょうか。

 判例は、このケースについては、これまでのケースとは異なり、受贈者は、登記をしないと遺贈による所有権取得を第三者に対抗することができないものとしています(最判昭和39年3月6日民集18巻3号437頁)。したがって、Dの差押えは有効ということになります。

 

4 遺産分割と登記

 設例1の前半と事実は同一で、今度は、BCとで遺産分割の協議を行い,その結果、Bが甲不動産を取得することになったとします。ところが、Bがその旨の登記を行う前に、これまでの例と同様に、Cの債権者DがCに代位して相続登記を行った上で、Cの共有持分を差し押さえてきたらどうなるでしょうか。

 判例は、このケースにおいても、上記3の「遺贈と登記」の論点と同様に、登記必要説を採用しています。したがって、Bは、登記をしていない以上、Dに対して甲不動産の所有権全部の取得を対抗することができないことになります。

 

5 「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)と登記

 これが設例2で示した論点です。判例は、この論点については、無権利法理=登記不要説を採用しています。したがって、設例2において、Bは、登記がなくても、「相続させる」旨の遺言に基づいて自分が甲不動産の所有権全部を取得したことをDに対して対抗することができ、Dが行った差し押さえは空振りということになります。

 

【判例法理のまとめ】

 以上の判例法理の全体をどのように理解することができるでしょうか。2つの説明の可能性があります。

(1)遺産共有終了の前後での区分

 まず、判例は、遺産分割前の遺産共有段階での共有持分の取得およびその変更については、無権利法理を採用し、登記不要とする、これに対して、遺産共有の終了をもたらす財産取得については、登記を要求している、とする理解がありえます。法定相続分、指定相続分、相続放棄に関する登記不要説の採用は、この基準で説明できます。他方で、遺贈および遺産分割についての登記必要説の採用も同様です。言い換えますと、相続による財産承継は、最低1回は登記の対象になるということです。

 しかし、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)と登記の論点は、この基準からはみ出しています。「相続させる」旨の遺言の対象になった財産は、遺産共有から外れるにもかかわらず、登記不要とされるからです。この観点からは、「相続させる」旨の遺言に関する判例法理は、判例の首尾一貫性を損なうもので妥当性に欠けるという評価がなされることになります。

(2)相続法理による承継の有無による区分

 もう1つの説明の可能性は、判例は、相続法理による承継の有無によって登記不要と必要とを区分しているという説明です。つまり、法定相続分での承継は当然として、指定相続分による承継も,相続を根拠とする承継であることはたしかです。また、判例は、「相続させる」旨の遺言による承継と指定相続分による承継との同質性を強調しています。したがって、判例は、この場合についても相続承継であることを根拠として登記不要の結論を正当化しているものと見ることができます。これに対して、遺贈の場合には、相続人外の者への遺贈が相続承継ではないことは当然です。相続人への遺贈も、それと同様に、相続を根拠とするものではないと捉えることができます。したがって、登記不要となるわけです。

 この説明で困るのは、遺産分割です。これも、根本的には相続承継ですから、上記の説明によれば、遺産分割については登記不要とするのが自然のようにも思えるからです。遺産分割の場合には、相続承継の性格をもちながら、相続人の意思によって財産の帰属を認める点に、例外的扱いの根拠を求めることになるでしょうか。

 

【改正法による変更】

1 改正内容

 今回の改正法は、相続による権利の承継について、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないとする規定を新設しました(899条の2第1項)。その結果、上で整理した判例法理のうち、相続分指定に関するものと、「相続させる」旨の遺言に関するものが変更され、登記が必要ということになりました。一般に民法改正では、判例法理を明文化するケースが多いところ(とりわけ債権法改正の際はそうでした)、明確に判例を変更する改正を行ったわけで、注目に値する改正です。とりわけ、「相続させる」旨の遺言は、多くの遺言において用いられていますので、判例法理の否定と新しいルールの創設は、きわめて大きな意義を持っています。

 

2 改正法の理念

 この改正法の理念としては、2つを語ることができます。

 第1に、改正法は、法定相続分に基づく相続承継と法定相続分を変更して行われる相続承継とを峻別し、後者については登記を要求しました。後者は、要するに意思がからんだ相続承継ということです。法定相続分を変更するのは、意思に他ならないからです。このようにして、相続分指定と「相続させる」旨の遺言に基づく承継について、判例法理が変更されて登記が要求されるのです。この意思は、被相続人の意思であることが主として想定されていますが、相続人の意思であることもあります(相続放棄ケース)。なお、遺贈についてももちろん登記が要求されますが、これは特定承継ですから、改正法とは関係がなく、民法177条の論理に基づいて登記が要求されることになります。

 第2に、法定相続分を信頼する第三者の保護です。典型的には、設例でもしばしば出しましたが、相続人が法定相続分を承継していると信頼してそれに基づく共有持分を差し押さえてくる第三者を保護するということです。この第三者は、基本的には金融機関です。銀行を初めとする金融機関は、遺言の有無やその内容を知ることができません。金融機関は、それにもかかわらず、そのような遺言によって自分たちの法定相続分への信頼が害されることを嫌ったのです。

 このように、対抗要件としての登記の役割が拡大されたことは、一般的な取引安全に資するだけでなく、登記をするインセンティブを喚起することによって、相続未登記に由来する所有者不明土地問題に対処するという意味も持ちます。現に、所有者不明土地問題への対処を主たる課題とする現在進行中の物権法・相続法改正事業では、この方向がさらに推し進められようとしています。

 他方で、改正法が成立した結果、相続分指定がある場合には、相続人は、指定相続分についても登記を要求され、最後に指定相続分に基づいて遺産分割をした際にも登記を要求されることになります。これは、相続人にとってやや過大な負担ではないかという問題を指摘することもできるでしょう。「相続させる」旨の遺言に関する判例法理を変更するだけという改正も考えることができたように思われます。

 なお、今回の改正は、債権承継の場合の対抗要件取得に関するルールも定めましたが(899条の2第2項)これについては、省略します。

 

 

 

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