殺人罪は、故意に人の生命を断絶する犯罪ですので、いかに人の死亡という重大な結果が生じたとしても故意(殺意)がなければ殺人罪は成立しません。本件でもあおり運転をした被告人は、故意を否定して過失によっておきた交通事故だったと主張していました。
しかし故意は、確定的な故意だけには限られません。たとえば自分の行為によって相手が死ぬかもしれないが死んでも構わないというように相手の死を認識しながら行為に及んだ場合には「未必的な故意」があったと認められます。
本件でも、被告人が100キロ近いスピードで走行する車を同スピードで走行するバイクに衝突させればバイクが転倒することは明らかで、それによって運転手が死亡する危険のあることは十分に認識できていたのに衝突後もすぐに停止することなく走行を続け、その後「はい終わり」と発言するなどの事実関係から未必の故意を認定しました。
未必の故意の認定は難しいのですが、ドライブレコーダーに残された双方の走行状況の録画や客観的な行為態様その他の周辺事情などの事実関係を総合して故意を認定した判決として紹介します。