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改正相続法を知ろう!

                      弁護士・北海道大学名誉教授 吉田克己

 

連載第8回 遺言執行者の権限の明確化

 

【設例】

 Aさんが死亡して相続が開始しました。相続人は、配偶者(妻)のBさん、子どものCさん、Dさんの3人です。Aさんは、自筆証書遺言を遺しており、それによれば、遺産のうち、AさんがBさんと居住していた甲不動産は「Bに相続させる」ものとされ、Aさんが所有していたもう1件の不動産である乙不動産は、生前に世話になったEさんに遺贈するものとされていました。また、遺言執行者として、知人の弁護士であるFさんを指定するものとされていました。

 以下、この設例に基づきながら、さらに設例を具体化して、今回の相続法改正によって、遺言執行者をめぐる法律関係がどのように整理されたかを見ていくことにしましょう。

 

【遺言執行者の法的地位の基本】

 公正証書遺言であれ自筆証書遺言であれ、遺言者にとっては、遺言の内容がきちんと実行されることが重要です。そのためには、信頼できる者に遺言の執行をお願いすることが有効な手段となるでしょう。そして、今回の相続法改正を主導した理念の1つである遺言活性化を進めるためには、この遺言執行者の法的地位が明確になっていることが重要な意味を持ちます。

 ところで、改正前民法は、遺言執行者の法的地位を「相続人の代理人とみなす」と規定していました(旧1015条)。本当は、遺言執行者は遺言内容の実現を任務とするわけですから、被相続人の代理人とするのが実態に合っています。しかし、被相続人はすでに死亡していますから、死者を本人とする代理関係を想定するわけにはいきません。そこで、実態と必ずしも合わないことは承知の上で、遺言執行者を相続人の代理人と定めたのです。もっとも、遺言執行者がその権限の範囲内で行った行為の効力は、相続人に帰属することとしなければなりませんので、その意味では、遺言執行者を相続人の代理人と構成することは、適切です。しかし、全体として、改正前民法においては、遺言執行者の法的地位が必ずしも明確でなかったことは事実です。

 改正民法は、上記の民法1015条を廃止するとともに、従来から必ずしも同条の文言にとらわれることなく認められていた次の2点を明文化しました。

 第1に、遺言執行者の一般的な権限について、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と規定されました(新1012条1項)。これによって、遺言執行者は、相続人の利益のために権限を行使するのではないことが明確になりました。改正前民法の下でも同様の考え方でしたが、先に示した民法旧1015条の文言の下では、誤解が生じる可能性もありました。改正民法は、そのような誤解の余地をなくしたわけです。

 第2に、遺言執行者が行った行為の帰属先について、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」と規定されました(新1015条)。旧1015条が持っていた合理的意味内容が承継され、明文化されたわけです。

 

【遺贈がある場合の法律関係】

設例A 上記の設例において、乙不動産の遺贈を受けたEさん(相続人ではない)が、その所有権移転登記手続を求めたいとします。Eさんは、誰を相手にその請求をすべきなのでしょうか。

(1)改正前民法の下での考え方

 相手となる候補者としては、相続人であるB、C、Dと、遺言執行者であるFとがいます。仮に遺言執行者Fがいませんと、遺贈の履行義務者は、相続人であるB、C、Dとなります。しかし、遺言執行者が存在するのであれば、遺言執行者を相手方にするのが適切であって、相続人を相手とするべきではありません。改正前民法の下でも、判例はそのように考えていました(最判昭和43年5月31日民集22巻5号1137頁)。

(2)改正民法の考え方

 改正民法は、先に述べましたように、遺言執行者が遺贈についてもその内容を実現するための一切の権利義務を有することを確認しました(新1012条1項)。したがって、遺言執行者であるFが遺贈履行の相手方になりうることは当然ということになります。改正民法はさらに、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができると規定しました(同条2項)。したがって、Eは、B、C、Dを相手に遺贈の履行を求めることはできません。いずれも、改正前民法の下でも認められていた解決ですが、改正民法は、その旨を明示し、法律関係を明確にしたわけです。

 

【「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)がある場合の法律関係】

設例B 上記の設例において、Aの遺言で甲不動産を「相続させる」ものとされているBが、甲不動産に関する所有権移転登記をしたいと思っています。遺言執行者Fには、この手続に関して何らかの権限が認められるでしょうか。

 「相続させる」旨の遺言は、公証人が公正証書遺言の実務の中から作り出してきた遺言条項です。しかし、今では、公正証書遺言に限定されず、自筆証書遺言でも活用されている遺言条項です。

(1)改正前民法の下での考え方

「相続させる」旨の遺言にどのような効果が認められるかについては、いろいろな議論の経緯がありました。現在では、この遺言条項の効力によって、Bに「相続させる」とされた不動産の所有権は、直ちにBに移転するとされていす。改めて遺産分割を行う必要はありません。「相続させる」旨の遺言には、遺産分割方法の指定の意味がありますので、遺産分割を行ったのと同様に、遺言の効力発生と同時に、その所有権の取得が認められるのです。としますと、「相続させる」旨の遺言には遺言執行の余地がないということになります。ですから、この点に関して、遺言執行者Fには何の権限も義務もありません。

もっとも、所有権移転登記手続を行うことについては、遺言の執行と認める余地もあります。しかし、「相続させる」旨の遺言に基づく権利の承継は、登記がなくても第三者に対抗することができるというのが、改正前民法の下での判例理論でした。このように考える場合には、所有権移転登記手続を行うことを遺言の執行だと認めることも、難しくなるでしょう。登記をする必要性が必ずしもないからです。

さらに、この登記は、所有権移転原因が相続ですから、Eの単独申請で行うことができるという点も指摘しておく必要があります。そのため、登記をする場合でも、登記は遺言執行とは関係がなく、遺言執行者Fには、登記をすべき権限もなければ義務もないということになります。改正前民法の下では、原則としては(例外もありました)このように考えられていました。

以上要するに、遺言執行者の権限は、「相続させる」旨の遺言については、きわめて限定されていたのです。

(2)改正民法の考え方

 改正民法においては、2点で上記の扱いが変更されます。

 第1は、法定相続分を超える権利承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとされたことです(新899条の2)。これによって、登記不要とされていた「相続させる」旨の遺言による不動産所有権承継についても、登記が必要ということになりました。これは、判例法理を変更する、きわめて重要な改正です。

 第2に、その上で、上記の対抗要件を備えるために必要な行為については、遺言執行者にそれをする権限があることが認められました(1014条2項)。これも従来の考え方を改める重要な改正です。

 改正民法はさらに、特定財産承継遺言の対象が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、その対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとともに、その払戻しの請求をすることを認めるものとしました。また、特定財産承継遺言の目的がその預貯金債権の全部である場合には、解約も認められます(以上、1014条3項)。払戻し請求などについては、これまでの実務の扱いを法律で認めるものです。

 改正民法は、遺言執行者が存在する場合には、遺言執行者に相続関係の公平な規律において大きな役割を期待しています。したがって、遺言執行者の権限についても、拡大する志向が見出されます。「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)についても、同様の志向が見出されます。

 

【相続人による遺言執行の妨害】

設例C 上記の設例において、相続人の1人であるDさんは、Eさんへの遺贈の対象になっている乙不動産について、遺言を無視し、遺産分割において自分が乙土地の所有権を承継したという書類を偽造して、自己名義で登記した。上で、Gさんに乙不動産を譲渡し、所有権移転登記も経由した。

(1)改正前民法の下での考え方

 遺贈による所有権取得は、登記をしないと第三者に対抗することができないというのが、改正前民法の下での判例法理です。他方で、改正前民法は、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」旨を定めていました(1013条)。そして、判例は、これに違反してなされた相続人の処分行為は無効だとしていました。したがって、設例のDさんの処分行為は無効ですので、遺贈によるEさんの乙不動産所有権の取得は保護されるわけです。

(2)改正民法の考え方

 改正民法は、従来の規定を維持するとともに(新1013条1項)、2項を新設して、違反行為が無効である旨を明示するとともに、無効をもって善意の第三者に対抗することができない旨を定めました(新1013条2項)。従来の判例法理による無効だけですと、取引安全を害することがあります。その点を考慮した改正です。「善意」だけで足り、「無過失」まで要求されないのは、第三者に遺言の有無に関する調査義務まで課すのは相当ではないからです。

 他方で、相続人の債権者は、遺言執行者がいても、その権利の行使を行うことができます(新1013条3項)。遺言等で遺言執行者が指定・選任されても、債権者の権利行使を制限する理由がないからです。

 

【遺言執行者の復任権】

 以上のほか、遺言執行者の復任権に関する改正があります

 改正前民法は、やむをえない事由がある場合に限って復任権を認めていました(1016条1項)。これに対して、改正民法は、遺言執行者は、原則として自己の責任における復任権を認められます(新1016条1項)。遺言による遺言執行者の指定の場合には、相続人の1人が指定されるなど、専門知識に乏しく適正な遺言執行が期待できない場合もあります。また、利益相反が心配される場合もあります。そのような場合に、広く復任権を認めて、弁護士などの専門家に実際の遺言執行を委ねることを可能にする趣旨の改正です。

 

 

 

 

 

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