札幌の弁護士による相続・遺産分割相談

〒060-0002札幌市中央区北2条西9丁目インファス5階 TEL 011-281-0757 FAX 011-281-0886

  • HOME
  • 事務所概要
  • 業務内容
  • 弁護士紹介
  • 弁護士費用
  • アクセス
  • ご相談の流れ
  • お問合せ
  • 採用情報

改正相続法を知ろう!

                              弁護士・北海道大学名誉教授 吉田克己

 

連載第4回 配偶者の保護の方策その3:配偶者短期居住権制度の創設

 

【問題状況その1】

 夫Aが妻BとA所有の建物(甲建物とします)に一緒に生活していたとします。子どもは2人いますが(CとD)、いずれも独立して親と一緒には住んでいません。Aが亡くなって相続が開始し、遺言は存在しなかったとします。Bさんと子ども2人とは遺産分割の協議を開始することになりますが、その間、Bさんは、甲建物の居住を継続することができるのでしょうか。

 

【問題状況その2】

夫Aが妻BとA所有の建物(甲建物とします)に一緒に生活していたとします。子どもは2人いますが(CとD)、いずれも独立して親と一緒には住んでいません。Aが亡くなって相続が開始しました。ここまでは上の【問題状況その1】と同じです。ところが、今度は遺言が存在し、甲建物は、長男のCさんに遺贈するものとされていました。この場合に、Bは、甲建物をCさんに直ちに明け渡さなければならないのでしょうか。

 

【配偶者短期居住権によるBの居住の保護】

1 原則的考え方

 以上2つの場合のいずれについても、Bによる甲建物の居住は、一定期間は保護されます。具体的には、【問題状況その1】の場合には、遺産分割手続きが終了して、甲建物が誰に帰属するかがはっきりする時まで、配偶者の無償での甲建物居住が確保されます(民法1037条1項1号)。

 もっとも、このルールだけですと、遺産分割が早期にまとまりそうなのに、それなると配偶者居住権が終了してしまうというので、Bが早期の遺産分割成立に応じないという好ましくない事態が生じる可能性もあります。そこで、そのような事態を避けるために、遺産分割が早期に成立するような場合については、相続開始から6ヶ月を経過する時までは、配偶者短期居住権が存続するものとされています。このようにして、要するに、遺産分割の成立する日か、相続開始から6ヶ月が経過する日とのいずれか遅い日まで配偶者短期居住権が存続するわけです(民法1037条1項1号)。

【問題状況その2】の場合には、遺贈で甲建物所有権を取得したCがBに対して配偶者短期居住権消滅の申入れをしてから(同条3項参照)6ヶ月を経過する時まで、Bの無償での甲建物居住が確保されます(同条1項2号)。この場合には遺産分割が行われませんから、【問題状況その1】の処理策ではうまくいかず、別のルールが必要になるわけです。

 夫Aの死亡によって妻Bは、大きな打撃を受けているはずです。それに加えて、長年住み慣れた住居からの退去を余儀なくされるとしますと、Bの精神的・肉体的負担はきわめて大きなものになります。そこで、居住建物である甲建物へのBの当面の居住を保護して、Bへの打撃の軽減を図るというのが、今回新設された配偶者短期居住権制度の趣旨です。この使用権の利益は、前回検討した配偶者居住権とは異なり、具体的相続分に算入されることがありません。純粋に配偶者の利益になるわけです。 

2 従来の法状況との対比

 従来も、BがAとともにA所有の建物に居住していた場合には、A死亡後に、Aの生前の意思を合理的に解釈して、AB間で、特段の事情がない限り、相続開始時から遺産分割時までの使用貸借が成立していたものとされていました(判例:最判平成81217日民集50102778頁)。したがって、多くの場合には、遺産分割までは、Bの甲建物への無償での居住が確保されていたわけです。

 今回の改正は、この判例の趣旨を活かしつつ、判例では保護されない場合にまで配偶者の保護を拡大するものです。たとえば、【問題状況その2】のようなケースは、Aの意思としてはBの居住継続を否定する趣旨とも見られますから、従前の判例ではBの保護は難しいでしょう。そのような場合を含めて、改正法は、Bの短期の居住権を認めているのです。

3 その後のBの居住

 しかし、改正法によるBの保護は、あくまで短期的・暫定的なものにすぎません。それでは、その後のBの居住は、どのようになるのでしょうか。いくつの場合がありえます。

(1)Bが甲建物の所有権を取得する場合

 遺産分割の結果、Bが甲建物の所有権を取得することになれば、Bの居住は確保されます。しかし、建物の価額が具体的相続分に充当されますから、Bが取得する他の財産は、それだけ少なくなることになります。

(2)Bが甲建物の配偶者居住権を取得する場合

 遺産分割の結果、甲建物はたとえばCに帰属することになったとします。その上で、Bに、前回扱った配偶者居住権が認められることもあります。この場合にも、遺産分割後のBの居住が確保されます。前回述べましたように、配偶者居住権の価額は具体的相続分に充当されますが、所有権取得に比べればその価額は小さいですから、Bは、他の財産をそれだけ多く取得できることになります。

(3)Bが甲建物の所有権も配偶者居住権も取得しない場合

 この場合には、Bの甲建物の居住は、配偶者短期居住権が終了した時点で確保されなくなります。無償での居住を確保する配偶者短期居住権は、あくまで暫定的なものなのです。

 

【配偶者短期居住権の法律関係】

1 使用借権類似の法定の債権

 改正前の判例は、先に触れましたように、当事者の意思の推認に基づいて、使用貸借の成立を認めていました。これに対して、改正法は、当事者の意思を根拠とすることなく、一定の要件を満たす場合に、配偶者短期居住権の成立を認めています。したがって、配偶者短期居住権は、使用貸借のような契約に基づく権利ではなく、法律によって認められる法定の債権ということになります。

 しかし、それは、使用借権と類似していることはたしかです。さらに言えば、その法律関係は、基本的には使用借権と同様だと言っても差し支えありません。改正民法も、配偶者短期居住権に関しては、基本的には使用貸借の規定を準用していますし(1041条)、使用貸借と同様の内容の規定を置くこともあります。たとえば配偶者による使用に関する1038条は、使用貸借における594条と同趣旨の内容です。明確な規定がない場合の解決も、基本的には使用貸借における解決を参照して決めることになるでしょう。

2 基本的法律関係

(1)当事者間の法律関係

 まず、配偶者短期居住権を有するBに認められるのは、使用権だけで、収益権は認められません(1037条1項本文参照)。Aが居住建物の一部から収益を得ていたような場合には(たとえば店舗としての賃貸)、その収益は、相続分にしたがって共同相続人に帰属することになります。Bの配偶者短期居住権は、そのような収益までは。及びません。

 次に、Bは、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物(甲建物)の使用をする必要があります(1038条1項)。他人の建物の使用権である以上、当然の規律でしょう。Bはまた、甲建物取得者の承諾を得なければ、第三者に甲建物を使用させることができません(同条2項)。これも使用貸借と同様の規律です。Bがこれらの規律に違反した場合には、甲建物取得者は、配偶者短期居住権を消滅させることができます(同条3項)。使用貸借の解除に対応する措置です。

 他方で、甲建物取得者は、甲建物の修繕義務は負っていません。修繕等の通常の必要費は、Bの負担になるのです(1034条1項)。これも使用貸借の規律(595条1項)と同じで、賃貸借(606条参照)とは異なるところです。甲建物取得者は、Bの居住を受忍すれば足りるのです。

(2)第三者との関係

 第三者との関係で重要なのは、対抗力の有無です。配偶者短期居住権については、これも使用借権と同様に、対抗力を取得する手段はありません。したがって、甲建物取得者が甲建物を第三者に譲渡すれば、Bの配偶者短期居住権は覆滅することになります。

 しかし、甲建物取得者には、Bの居住建物の使用を妨げてはならない義務が課されており、そこには甲建物の譲渡も含まれています(1037条2項)。したがって、甲建物取得者が甲建物を譲渡することは、この義務違反に他なりません。Bは、甲建物を譲渡したものに損害賠償を請求することができることになります。その額は、失われた使用利益で、それは6ヶ月相当のものになるものと考えられます。

 

【配偶者短期居住権が成立しない場合】

 最後に、配偶者短期居住権が成立しない場合をいくつか挙げておきましょう。

 第1に、Bが内縁配偶者であった場合には、配偶者短期居住権は成立しません。当事者の意思の推認による場合には、この成立の可能性もあったのですが、法律婚尊重を旗印に法定の債権成立を認めるという改正法の基本的考え方の下では、内縁配偶者に配偶者短期居住権が認められる余地はありません。

 第2に、Bが相続欠格事由(891条)に該当する場合、およびBがAによって推定相続人から廃除された場合(892条)にも、配偶者短期居住権は成立しません(1037条1項ただし書)。このように被相続人との関係で相続権を否定される者には、政策的な保護措置である配偶者短期居住権を付与すべきではないからです。他方で、Bが相続を放棄する場合には、Bについてそのような否定的評価が成り立ちませんから、配偶者短期居住権の成立が認められます。

 第3に、被相続人であるAが借家人であった場合には、その借家にAとともに居住していたBには、配偶者短期居住権が認められません。このような住宅は、「被相続人の財産に属した」(1037条1項本文参照)とは言えないからです。この場合には、配偶者であるBと他の共同相続人C、Dとの間で借家権の準共有が成立し、Bは、その資格で甲建物の居住を保護されます。

 

改正相続法を知ろう!の記事一覧

改正相続法を知ろう!~連載第8回~

改正相続法を知ろう!~連載第7回~

改正相続法を知ろう!~連載第6回~

改正相続法を知ろう!~連載第5回~

改正相続法を知ろう!~連載第4回~

改正相続法を知ろう!~連載第3回~

改正相続法を知ろう!~連載第2回~

改正相続法を知ろう!~連載第1回~

ご相談のご予約・お問い合わせ 011-281-0757

ご相談の流れはこちら

メールでのご相談はコチラ

事務所概要

〒060-0002札幌市中央区北2条西9丁目インファス5階 TEL011-281-0757 FAX011-281-0886 受付時間 9:00~17:30

当事務所の運営サイト

 札幌市の弁護士による企業再生 札幌市の弁護士による交通事故相談.com 札幌市の弁護士による相続・遺産分割のご相談.com