札幌の弁護士による相続・遺産分割相談

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改正相続法を知ろう!

                      弁護士・北海道大学名誉教授 吉田克己

 

連載第3回 配偶者の保護の方策その2:配偶者居住権制度の創設

 

【問題状況】

 夫Aさんが妻BさんとA所有の建物(甲建物とします)に一緒に生活していたとします。子どもは2人いますが(CとD)、いずれも独立して親と一緒には住んでいません。Aさんが亡くなって相続が開始した場合に、Bさんは、夫Aさんとの思い出が詰まった甲建物に住み続けたいと願うでしょう。この願いは、どのようにしたら叶えることができるでしょうか。

 

【いくつかの方策】

1 贈与または遺贈

ひとつ考えられるのは、①Aさんの生前にAB間で甲建物の贈与契約を結んでおくか,②Aさんが遺言で甲建物をBさんに遺贈することです。そうしますと、Bさんは、甲建物の所有権を確保することができます。しかし、このような生前贈与または遺贈は、特別受益であり相続分の一部として評価されますから(前回触れた「持戻し」です)、BさんがAさんの他の遺産(たとえば預金)から受け取れる額は、それだけ小さくなってしまいます。

これを避けるためには、Aがいわゆる持戻し免除の意思表示をすることが考えられます(民903条3項)。これを行えば、Bの甲建物取得は、相続分の外で行われたことになりますから、Bさんは、Aさんの他の遺産について、具体的相続分に対応する額を取得することができます。そして、今回の相続法改正は、前回触れましたように、婚姻期間が20年以上の夫婦について、この意思を表示したことを推定することとしました(民903条4項)。したがって、生前贈与または遺贈は、Bさん保護の手段としてかなりの程度に意味があると言えましょう。

しかし、問題はなお残ります。Aさんに甲建物以外の財産が十分にあればよいのですが、そうでない場合には、甲建物の生前贈与または遺贈が、CさんとDさんの遺留分を侵害する可能性が出てくるのです。この場合には、Bさんは、CさんとDさんの遺留分が侵害されている分だけ、金銭で支払うという負担を負うことになります。

2 配偶者居住権

Bさんにとって重要なのは、甲建物の居住を確保されることであって、その所有権を所得することではないはずです。そうであれば、Bさんの希望を叶えるためには、所有権ではなく安定した居住権を確保することで足りるはずです。このような発想で新しく制度かされたのが、配偶者居住権です(民1028条以下)。

この配偶者居住権がどの程度の財産的価値に相当するのかを判断することは、それ自体、今後の重要な実務上の問題になります。しかし、ともあれ、配偶者居住権は、所有権と比較すれば低廉な価額であることはたしかです。このようにして、「1贈与または遺贈」の項で整理した問題点は、なくなるわけではありませんが、大きく減少することになります。

配偶者居住権には、もうひとつのメリットがあります。AさんBさんは再婚カップルで、Aさんには前妻との間の子Eが、Bさんには前夫との間の子Fがいたとします。この場合にBさんに贈与または遺贈で甲建物の所有権が移転させますと、その後Bさんについて相続が開始した場合に、甲建物はBさんの子どものFさんに承継されてしまいます。Aさんにとってそれは望まない結果であることが多いでしょう。そこで、AさんがBさんのために配偶者居住権を遺贈で設定しますと、Bさんのその後の居住の利益は確保しながら、その所有権については、自分の子どものEさんに承継させることが可能になります。このように、配偶者居住権の設定によって、いわゆる「後継ぎ遺贈」と同様の結果を得ることができるわけです。

 

【配偶者居住権の成立】

 それでは、次に、この配偶者居住権を成立させるために、どのような要件が必要かを見ましょう。この居住権の成立要件としては、次の2つを挙げることができます(民1028条1項)。

 1 配偶者Bが相続開始時に被相続人A所有の建物に居住していたこと。

 (1)配偶者居住権の保護を受けるには、法律婚上の「配偶者」であることを要し、内縁配偶者では足りません。近時の立法の展開では、多くの領域で、法律婚上の配偶者と内縁配偶者との法律上の扱いが平準化する傾向にあります。しかし、今回の相続法改正で実現した配偶者居住権では、法律婚上の配偶者と内縁配偶者とは厳然と区別されます。

 その理由としては、この制度は、遺産分割における選択肢を増やすという趣旨であり、内縁配偶者はそもそも相続権を有しないことなどが挙げられています(堂園・神吉『概説改正相続法』11頁)。しかし、他の設定原因である遺贈や死因贈与は、内縁配偶者に対しても可能ですから、この理由に大きな説得力があるようには思えません。結局、今回の相続法改正の出発点には法律婚上の配偶者保護の理念が据えられたこと、配偶者相続分の引き上げが挫折した以上配偶者居住権構想に対してそのような理念を実現する制度として大きな期待を掛けられたこと、を指摘することができるでしょう。法律婚における配偶者保護のための制度である以上、内縁配偶者をそこに含めることは、とうてい認められない考え方になるのです。

 (2)配偶者居住権の対象である甲建物は、被相続人Aの所有であることが必要で、Aが甲建物の共有者である場合には、配偶者居住権を成立させることはできません(民1028条1項ただし書)。共有者には、一般的に、共有物を処分することは認められません。配偶者居住権の設定は、処分あるいは処分に準じる重い行為で,単なる共有者には認められない、このように理解しておくとよいでしょう。

 (3)Bさんは、甲建物に「居住」している必要があります。もっとも、その意味は、Bさんが甲建物を生活の本拠として用いていたことを意味するもので、一時的に甲建物から離れている場合に居住が否定されるわけではありません。たとえば、相続時にたまたま入院していたような場合には、この「居住」の要件を当然に満たします。

 2 配偶者Bに配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈または死因贈与がなされたこと。

 配偶者居住権は、法定の権利ということで、その成立要件が上記の3つに限定されます。ここでは、「遺贈」が必要であるため、「相続させる」旨の遺言では配偶者居住権を設定することが認められない点だけに注意しておきましょう。もっとも、「相続させる」旨の遺言の中に配偶者居住権を相続させる旨の条項が入っている場合には,その部分を無効とするのではなく、それは遺贈を意味するものと遺言解釈されることになるでしょう。ここでは、「相続させる」旨の遺言による承継も遺贈と扱う傾向が認められます。この現象は、他の領域でも認められ(たとえば第三者への対抗。民899条の2)、今回の相続法改正のひとつの特徴になっています。

 3 具体的相続分への充当

 Bさんが配偶者居住権を取得しますと、それは、Bさんの具体的相続分の一部を構成するということになります。そのような操作が明確なのは、配偶者居住権が遺贈による場合と死因贈与による場合です。それらの場合には、配偶者居住権は、特別受益とされた上で持戻しの対象になり、具体的相続分に充当されるのです。

ですから、Bさんが遺産分割において取得できる財産は、配偶者居住権の評価額だけ減少するということになります。その点は、Bさんが甲建物の所有権を取得する場合と同じです。ただ、所有権よりも配偶者居住権の評価額のほうが安価であるため、Bさんに分与されるべき他の財産が減らないということです。

なお、配偶者居住権についても、持戻し免除の意思表示が可能であることにも、注意しておきましょう。この意思表示がなされると、Bさんは配偶者居住権を相続外で取得することができます。また、一定の夫婦については、この意思表示が推定されることも、先に触れました。

 

【配偶者居住権の内容など】

 1 配偶者居住権の安定性

 配偶者居住権は、原則として終身です(民1030条本文)。つまり、Bさんが生きている限り存続することが認められます。居住建物の所有者は、配偶者居住権の設定の登記をする義務を負います(民1031)。この登記をすれば、甲建物の所有権を承継した相続人がその所有権を譲渡した場合でも、Bさんは、配偶者居住権を新しい所有者に対抗することができます。このように、配偶者居住権の安定性は、かなり強いものです。

 反面、配偶者居住権の譲渡性は否定されます(民1032条2項)。譲渡には建物所有者の同意を要するというのではなく、譲渡性が絶対的に否定されるのです。配偶者居住権が、配偶者の居住を保護するための制度という観点からは、譲渡性の否定は、それなりに理解できる制度設計です(また、相続性も否定されています。民1036条によって準用される民597条3項)。しかし、配偶者居住権には、財産的価値が認められています。だからこそ、具体的相続分への充当が行われるわけです。そうであるのに、譲渡性を全面的に否定する制度設計が適切であったかについては、異論の余地があるかもしれません。

 2 配偶者と居住建物所有者との法律関係

(1)配偶者居住権の法的性質

配偶者居住権は、検討の途中では、用益物権とする方向で検討されていました。しかし、その後その方向は断念され、最終的には賃借権類似の法的の債権という位置づけが基礎に据えられました。しかし、配偶者居住権においては、明示の規定があるわけではありませんが、賃料の支払いがないものと想定されています。一定額の金銭評価をしてそれを具体的相続分から控除しますので、その後については、賃料等の支払いを想定しない趣旨です。そうである以上、配偶者居住権の法律関係を賃貸借のように考えるのは難しいと言わざるをえません。実際に、民法に規定されている配偶者居住権の内容は、賃貸借とはかなり異なっています。

(2)当事者間の法律関係

まず、配偶者居住権を得た配偶者は、用法に従い、善管注意義務を遵守した使用および収益を行う義務を負います(民1032条1項)。この辺りは、賃貸借の考え方と同じです。しかし、配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担するものとされます(民1034条1項)。通常の必要費の典型は、固定資産税などの公租公課です。これは、賃貸借ではなく、無償の利用関係である使用貸借と同じ考え方です(民595条1項参照)。また、修繕に関しても、まず配偶者のその権限(ということはその義務)が認められます(民1033条1項)。これもまずもって賃貸人に修繕義務が認められる賃貸借(民606条1項参照)とは大きく異なる考え方です。

全体としては、配偶者居住権は、当事者間の法律関係に関しては使用貸借に近く、その安定性という点では、用益物権に近いとまとめることができるでしょうか。立法関係者は、先に触れたように、配偶者居住権を賃借権類似の法定の債権としています。しかし、この見方については、今後議論が生じるかもしれません。

次回は、配偶者に認められるもうひとつの居住権である「配偶者短期居住権」を取り上げます。

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