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改正相続法を知ろう!

                    弁護士・北海道大学名誉教授 吉田克己

 

連載第2回 配偶者の保護の方策その1:配偶者相続分の引上げ

 

【配偶者相続分引上げの断念】

 今回は、改正内容に関する説明の最初の回として、今回の改正作業の目玉であった配偶者保護の方策を取り上げます。この方策にもいくつかあるのですが、今回の解説で具体的に取り上げるのは、配偶者相続分の引上げです。これは、実際には、妻の相続分の引上げを意味します。実は、改正作業の途中まではさまざまな案が検討されていたのですが、この方策は、最終的には断念されてしまいました。代わって実現されたのは、持戻し免除の意思表示の推定規定の新設という、ある意味ではマイナーな改正にすぎませんでした(903条の新4項)。

【日本相続法における配偶者相続分】

 配偶者相続分の引上げが断念された背景には、日本相続法における配偶者相続分がすでに形式的にはかなり大きなものになっているという事情があります。生存配偶者の相続分は、終戦直後の1947年の民法改正においては子どもとともに相続するという通常のケースで3分の1でしたが、1980年の改正で2分の1に引き上げられました。

 所有権レベルで生存配偶者にこのような大きな割合で相続分を認める立法例は、世界でも稀です。たとえばドイツ法では、上の日本の例と合わせて配偶者が第一順位の血族相続人(被相続人の直系卑属)とともに相続する場合を採ってみますと、法定相続分は、配偶者が4分の1、血族相続人が4分の3となっています。フランス法でも同様のケースを想定しますと、生存配偶者は、財産全体に対する用益権か、4分の1の所有権かを選択することができるとされています。フランスでは、伝統的に生存配偶者には用益権での相続しか認められず、所有権の相続はできませんでした。先祖伝来の家族財産が配偶者を介して家族外に流出するのを防ぐためです。近時、そのような伝統への固執は弱まり、所有権の相続も認められるようになりましたが、それでも、4分の1であるわけです。

 もっとも、このようなドイツやフランスの配偶者相続分の意味を考えるためには、夫婦財産制のあり方も押さえておく必要があります。ドイツでもフランスでも、夫婦が婚姻後に築き上げた財産は、共通財産(共有財産)とするのが一般的です。そうしますと、配偶者が死亡しますと、まず夫婦財産制の清算が行われ、共通財産の半分は生存配偶者に分けられます。日本では、法定夫婦財産制は別産制です。そこで、従来は主流であった主婦婚ケースを考えますと、夫が死亡した場合の遺産の多くは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産ですが、夫の名義になっているものです。ですから、このような場合に妻に2分の1の法定相続分が認められることは、ドイツ法やフランス法では夫婦共通財産の清算で妻が共通財産の2分の1の権利を認められるのと同じ機能を果たすものと捉えることができます。ドイツやフランスでは、その上で被相続人に属する残った共通財産の半分が相続の対象になるわけですから、生存配偶者の権利は、全体としてみれば、かなり大きなものになります。日本相続法において生存配偶者の相続分を引き上げることは、この意味では、十分にありうる案と言ってよいでしょう。

【どのようにして配偶者相続分を引き上げるか?】

 それでは、どのように配偶者相続分を引き上げればよいのでしょうか。今回の改正作業での特徴は、ヨーロッパ的な夫婦財産制の清算という考え方を実質的には取り入れながらも、それを、夫婦財産制の改正ではなくて、相続法の改正によって実現しようとしたところに求められます。さまざまな案が提示されましたが、それを詳しく紹介する意味はあまりないでしょう。ここでは、前回も紹介した「相続法制検討ワーキングチーム」で提案された案の1つを紹介するだけに止めます。それは、「遺産分割の手続に先行して実質的夫婦共有財産の清算を行う」案で、次のようなプロセスで配偶者相続分の増加を図っています。

 (ア)AB夫婦を想定し、A(夫)が死亡して相続が開始したとする。Aの財産について、実質的夫婦共有財産(αとする)とそうではないAの実質的固有財産(βとする)を分ける。

 (イ)その上で、まずαについて清算をする。そのようにして、αの2分の1をBに帰属させる。これは、前述のように、夫婦財産制について共有制を導入した場合における夫婦共有財産の清算の意味を持つ。

 (ウ)次いで、αの残りの2分の1(実質的夫婦共有財産のA帰属分)とAの固有財産が、狭義の相続の対象になる。ここでのBの法定相続分は、現在の2分の1よりも小さいものにする必要がある。Bは、すでに相当の財産を実質的夫婦共有財産の清算を通じて得ているからである。報告書は、この数値を3分の1と仮に置いている。

 計算式で示すと、Bが取得できる取分は、1/2α+(1/2α+β)✕1/3(①)である。これを変形すると、(1/2+1/6)α+1/3β=2/3α+1/3β(②)となる。

 かなり分かりにくかったと思います。しかし、要するに、先に示したドイツやフランスにおける、夫婦財産制の清算後の配偶者相続分であった4分の1を仮に3分の1にする案だと理解するとよいでしょう。(ア)から(ウ)の前半まででそれが示されています。それを相続法の改正一本でまかなおうとするので(ウの後半部分)、分かりにくくなっているのです。

【配偶者相続分引上げの断念と持戻し免除の意思表示の推定規定の新設へ】

 法制審議会でも、内容はやや異なりますが、実質的な配偶者相続分引上げを目指すさまざまな案が提示されました。しかし、それらをまとめた「中間試案」に対するパブリックコメントでは、配偶者相続分の引上げに対しては、反対意見が多数を占めました。次のようにまとめられています。

「以上のとおり,パブリックコメントにおいては,配偶者の相続分の見直しに反対する意見が多数を占めている上,配偶者の相続分を現行法以上に引き上げる必要がなく,見直しを検討する立法事実に欠ける,相続に関する紛争が複雑化,長期化するおそれがあり,かえって当事者の利益を害するおそれがあるなど,中間試案の考え方の基本的な部分や制度設計について根本的な疑問を呈する意見が多数寄せられたところであり,中間試案の方向性自体についても国民的なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にある。」(2016年10月18日第14回会議・部会資料14「今後の検討の方向性について」7頁)

以上の状況を踏まえて、法制審議会の第15回会議(2016年11月22日)で配偶者相続分の引上げ構想は断念され、代わって、一定の場合に、持戻し免除の意思表示の推定を置くという構想が提示されました。この案が改正に結びつき、903条の新4項となったのです。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

【持戻し免除の意思表示の推定の意味】

 この規定によれば、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方である被相続人が他の一方に対して、その居住の用に供する建物などを遺贈や贈与したときは、民法第903条第3項の持戻し免除の意思を表示したものと推定するものとされています。

 持戻しとは何かをここで詳しく説明することはできません。きわめてざっくりと言えば、たとえば夫が妻に生前に住宅を贈与したとしますと、それは相続分の前渡しとして扱われます。そこで、夫の相続時に、住宅の価値が計算上遺産に組み込まれて、妻の相続分が算定されます。この操作を「持戻し」と言います。つまり、その贈与は、相続に際して妻を有利にはしないのです。しかし、夫が贈与の際に、この贈与については持戻しを免除する旨の意思表示をしますと、それは相続分の外での贈与になりますから、その分だけ全体としての妻の取り分が増えることになります。

 今回の改正は、この意思表示を推定するわけです。それによって妻の取り分が実質的に増える可能性は大きくなります。しかし、配偶者相続分自体を引き上げることと比べますと、微温的な改正であったことは否定できません。そこで、配偶者保護の方策を充実させるという課題の実現の期待は、次回解説する配偶者居住権にかけられることになりました。


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