

労働問題コラム「給料の引き下げに同意する書面に署名をしてしまった場合にはどうしたらよいのか」(元裁判官・労働審判官 弁護士内田健太)
1 相談内容
—「会社から、近時の会社の事業不振や自分自身の成績不良などを理由に、基本給の引き下げを依頼され、断ると気まずくなると考えて引き下げに同意する書面に署名押印してしまいました。合意した以上、従うしかないのでしょうか。」
2 おおまかな対応方針
会社が示してきた書面が自らに不利益な内容なのに、断りづらい状況なのもあって、合意の署名や押印をしてしまうケースはしばしばみられます。
ただ、形式的に同意をしたとしても、それが必ず有効とされるわけではありません。
・就業規則を下回るような同意ないようになっていないか
・同意を正当化する合理的な理由があるか
などを考慮し、同意が有効かどうかを検討します。
同意が無効となれば、変更前の労働契約に従い、賃金の差額などを会社に請求していくことになります。
3 解説
⑴ 本来は合意で変更可能
労働契約も契約である以上、合意により内容を自由に変更できるのが原則です(労働契約法8条)。
そのため、変更内容を示した書面に署名するなどして同意すれば、実際に変更が認められることがあります。
⑵ 合意が無効になる場合がある
もっとも、労働者保護の観点から、以下の①②のような場合には、合意が無効になると考えられます。
①合意の内容が就業規則の水準を下回る場合(労働契約法12条)。
②不利益変更の程度、変更に至った経緯、説明内容などを総合的に考慮して、当該同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない」場合
特に②は、判例理論も確立していない上、様々な事情を総合的に考慮しての判断となります。そのため、事案の詳細な聞き取りが欠かせません。類似裁判例の調査、自身の経験などを踏まえて、同意が有効かどうかについて見通しを立てる必要性があります。
4 まとめ
賃金は労働者にとって重要な権利です。引き下げは、生活の見通しにも大きな影響が生じる、深刻な問題です。
私自身、裁判官時代に労働審判官として多くの労働審判を担当してきました。その経験をもとに、裁判になった場合の見通しをふまえ、依頼者の方の要望を踏まえ、方針を決定していきます。
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