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固定残業代制度を導入する際の留意点

・固定残業代制度とは

 固定残業代(みなし残業代)制度とは、実際の残業時間に応じて算出される労働基準法所定の時間外割増賃金(残業代)に代えて、予め一定額を支払う制度です。

 近年では、業務の効率化(残業をしなくても残業代が支払われるため、仕事を早く終わらせて定時に退社しようという動機付けになる)等の目的で、この固定残業代制度を導入する企業が増えていますが、同時に、同制度の有効性を巡る紛争も生じており、訴訟において無効と判断されるケースも少なからず存在します。

 本コラムでは、固定残業代制度を導入するに際し、留意すべきポイントや万が一無効と判断された場合の企業のリスク等についてご紹介します。

・固定残業代制度を導入する際のポイント

 固定残業代制度を導入する際には、大きく分けて、以下の2つのポイントを押さえておく必要があります。

 ① 労働契約における賃金の規定において、通常の労働時間の賃金に相当する部分(最低賃金法に基づく最低賃金額以上の金額を設定する必要があります。)と、残業代に相当する部分が明確に判別できること

 ② 固定残業代として支払われた金額が、労働基準法所定の方法によって算出される残業代の額以上であること

 このうち、①については、例えば、就業規則において、「基本給のうち、○万円を時間外割増賃金とする」と定める等して、通常の労働時間の賃金に相当する部分と、残業代に相当する部分とが明確に判別できるようにする方法が考えられます。

 また、②については、固定残業代が想定する残業時間を超えて残業が行われた結果、実際の残業時間をベースに算出した残業代の額が固定残業代の額を上回る場合には、その差額を支給する必要があります。
 したがって、企業としては、固定残業代制度を導入したとしても、労働者の労働時間を正確に把握する必要があり、固定残業代を超える残業代を支払わなければならない場合があることを想定しておく必要があります。

・何時間分の残業代を固定残業代として設定するか

 以上の①、②のポイントを押さえることは、固定残業代制度を導入する前提となりますが、何時間分の残業代を固定残業代として設定するかについても、固定残業代制度の法的有効性を確保する上で重要となります。

 この点については、行政上の告示において、36協定で定めることができる時間外労働時間について1か月45時間と限度基準を定めていることが参考になります(平成10年12月28日労働省告示第154号)。

 では、上記限度基準を超える時間分の残業代を固定残業代として設定した場合、法的にはどのように判断されるでしょうか。

 いくつかの裁判例では、上記限度基準を引用し、これを大幅に超える時間分の残業代を固定残業代として設定した場合には、労働者に長時間労働を恒常的に強いることになるため、企業が負うべき安全配慮義務に違反し、公序良俗ないし長時間労働を抑制する労働基準法の趣旨にも反するとして、当該固定残業代に関する合意は無効となる旨判断されています。

 具体的に何時間分の残業代を固定残業代として設定すると上記限度基準を「大幅に」超えることになるのかについては、現在の裁判例上、画一的な基準は示されていません。
 しかし、近時の裁判例において、いわゆる過労死ラインを参考にして、「1か月あたり80時間程度の時間外労働が継続することは、脳血管疾患及び虚血性心疾患の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり・・・通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効」と判断しているものがあり(東京高判平成30年10月4日労働判例1190号5頁)、参考になるものと思われます。

 このように、上記限度基準を超える時間分の残業代を固定残業代として設定した場合、その固定残業代制度が法的に無効と判断される場合がありますので、この点に留意して時間を設定する必要があります。

・固定残業代制度が無効と判断された場合の企業のリスク

 固定残業代制度が法的に無効と判断された場合、企業には、以下のとおり多額の残業代を支払うリスクが生じます。

 固定残業代制度が無効と判断されると、企業は労働者に対して残業代を一切支払っていないと評価されるのみならず、固定残業代として支払っていた金額は、残業代算定の基礎となる賃金(基礎賃金)の一部に組み入れられることになります。

 その結果、企業は、固定残業代分が上乗せされた基礎賃金に基づき、労働者の残業時間に応じた残業代を支払わざるを得なくなります。
 この残業代を支払う際、既に支払った固定残業代分の金額を控除できない(支払った固定残業代が残業代として評価されず、基礎賃金の一部と評価されるため)ことに注意が必要です。

・最後に

 以上のとおり、固定残業代制度は、企業にとってメリットがある反面、法的に有効と評価される制度設計を行わなければ、思わぬリスクを負う可能性もあります。
 また、固定残業代に関する裁判所の判断も画一的に定まっているとはいえず、有効性の判断基準が今後変動することも考えられます。

 固定残業代制度の導入をこれから検討される場合や、既に導入済みの同制度の有効性について疑問が生じた場合には、まずはお気軽にご相談ください。

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