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改正相続法を知ろう!~連載第9回~

弁護士・北海道大学名誉教授 吉田克己

連載第8回 遺言執行者の権限の明確化

【設例】

 Aさんが死亡して相続が

連載第9回 遺留分制度の見直し

【遺留分制度とは……】

 この連載の第6回目からは、今般の相続法改正の第2の特徴である遺言活性化のための諸措置を見てきました。ところで、日本の相続法は、遺言の自由を制約する重要な制度として、遺留分という制度を設けています。これは、簡単に言えば、配偶者や子などの相続人に対して、遺言でも侵害することができない一定割合の相続分を保障しようという制度です。その割合は、配偶者や子については、法定相続分の2分の1です(民法1042条1項)。

 設例

 Aさんには、推定相続人として子のBさんとCさんの2人がいます。Aさんは、前妻が亡くなってからDさんと親密にするようになりました。他方、AさんがDさんと親密になったということもあって、子であるBさんCさんとAさんとの関係は悪化し、ほとんど顔も合わせないような関係になっています。Aさんが死亡して相続が開始しました。ところが、Aさんは、全財産(時価4000万円の甲不動産と4000万円の預金)をDさんに遺贈するという公正証書遺言を作成していたことが判明しました。

この遺言によれば、BさんとCさんとは、Aさんの遺産から何も承継することができません。しかし、それではあんまりだという感覚を持つ人も多いと思います。このような場合に発動されるのが、遺留分制度です。BさんとCさんの法定相続分は、それぞれ4分の1です。遺留分はその2分の1ですから、それぞれ8分の1です。Aさんの遺言は、この遺留分を侵害していますから、BさんとCさんは、この侵害分について受遺者のDさんに返還を請求することができます。つまり、それぞれDさんに対して、甲不動産について1000万円に相当する共有持分権の返還を、預金についてもそれぞれ1000万円の返還を請求することができるのです。

なお、以上は、改正前の民法における扱いで、BさんCさんに認められる権利を「遺留分減殺請求権」と言います。現物での返還が認められるのがそこでの特徴です。この制度の内容は改正法によって改められ、請求権の名称も「遺留分侵害額請求権」と改められましたが、この点は後述します。

【遺留分制度の問題点と改正内容】

 以上のような内容を持つ遺留分制度は、相続人に一定の遺産を確保することでその生活を保障するという意味を持ちます。また、設例とは異なりますが、相続人の一部に対してだけ大きな遺贈(実際には、「相続させる」旨の遺言が多いのですが)が行われた場合には、遺留分制度は、このような遺言の効力を制限して相続人間の平等を確保するという意味を持ちます。これらの点で、遺留分制度には積極的な意味を認めることが可能です。

しかし、他方では、この制度には、批判も少なからず提示されていました。まず、遺留分制度は、事業用財産の一括承継を困難にし、それゆえ事業承継を困難にします。Aさんが個人事業主で、その事業用財産を一括して後継者のBさんに遺言によって承継させようとしても、遺留分制度によってそれが阻害されるということがありうるのです。また、遺留分減殺請求権を行使しますと、不動産などについて共有関係が成立しますが、これは、財の有効利用という観点から問題だとも批判されました。法律関係を複雑にするからです。さらに、遺留分制度によって保護される相続人の立場から見ても、生活保障を考えるのであれば、現物での返還の必要はなく、要するに、一定の金銭の支払いが得られればよいのではないかとも指摘されました。

 そこで、このような問題点を意識しつつ、遺留分制度の改正が行われました。そのポイントは2点に集約されます。

第1に、遺留分が侵害された場合の遺留分権者の救済を、従来の現物返還から、金銭での支払いに改めました(改正民法1046条1項)。これは、しばしば遺留分減殺請求権の金銭債権化または価値権化と言われます。前述のように、請求権の名称が「遺留分侵害額請求権」と改められたのは、この変更に伴ってです。

第2に、遺留分侵害の有無、また侵害額を計算する算定方法が見直されました。簡単に言えば、相続人に対する贈与は、古いもの、具体的には相続開始前10年よりも前のものは、算定の基礎となる財産計算から除外するということです。これによって、各相続人に確保される遺留分額は、小さくなります。

この2つの改正は、いずれも遺留分制度の機能を限定する性格のものです。その反面、遺言の自由はそれだけ拡大されることになります。遺留分制度の見直しも、改正法の特徴である遺言活性化のための方策と位置づけることができることになります。遺言活性化のための諸措置の最後に、今回、遺留分制度の見直しを取り上げる所以です。

以下、以上に整理しました2つの改正について、もう少し詳しく見ていくことにします。

【遺留分侵害の場合に生じる権利の金銭債権化】

1 金銭債権化とそれをめぐる若干の問題

 先の設例をもう1度見て下さい。改正民法の下でも、BさんとCさんの遺留分は侵害されていますが、この2人に認められる権利は、改正前のような現物返還の請求権(遺留分減殺請求権)ではなく、侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利となります(遺留分侵害額請求権。改正民法1046条1項)。したがって、BさんとCさんは、Dさんに対して、それぞれ2000万円を支払うよう請求することができるわけです。もう少し正確に言いますと、BさんとCさんが遺留分侵害額請求権を行使してDに対して侵害額2000万円を支払えと請求しますと、この請求によって、それぞれ2000万円の金銭債権が発生することになります。

預金については、現物返還でも金銭の支払いでもさほどの差異はないでしょうから、このような改正があっても、大きな違いは生じないでしょう。しかし、甲不動産については、新しい制度の下では、Dさんに義務づけられるのは金銭の支払いだけです。Dさんは、甲不動産の所有権を確保することができます。甲不動産に関する共有関係は生じません。これは、大きな違いです。

金銭債権化に伴って生じる問題は、Dさんに当面支払うべき現金がないという事態がありうることです(設例では、預金がありますので、そのようなことはないかもしれませんが)。これは、現物返還については生じなかった問題点です。改正民法は、そのような場合を想定した手当も講じています。裁判所の判断で、支払いを猶予してもらう可能性が認められるのです(改正民法1047条5項)。

この金銭債権は、通常の債権と同様の消滅時効にかかります。消滅時効制度については、先の債権法改正で大きな改正が行われました。簡単には、債権法改正法が施行される前に債権が生じた場合には改正前民法が適用されて権利を行使することができる時から10年、施行後に債権が生じた場合には改正法が適用されて権利を行使することができることを知った時から5年で消滅時効にかかります。債権法改正の施行日は2020(平成32)年4月1日ですので、相続法改正の施行のほうが先です(遺留分については、2019〔平成31年〕年7月1日から施行されています)。そこで、改正相続法に従って遺留分侵害額請求権を行使するのが、2020年3月末日まででしたら改正前民法の消滅時効制度が、その後でしたら改正民法の消滅時効制度が適用されることになります。

2 金銭債権化の意義

(1)社会的意義

 遺留分侵害の救済が金銭債権化しますと、遺言による事業財産承継に遺留分制度が阻害的に働くという事態は、避けることができます。遺言の自由は、それだけ拡大するのです。他方で、遺留分権利者にとっても、この措置は、それほど自分の利益を害するものではありません。現代の社会において重要なのは、財産自体を取得することではなく、一定の金銭的救済を受けることでしょう。ですから、金銭債権化は、このような現実のニーズを反映した救済となっていると言ってよいでしょう。 

(2)解釈論上の意義

 金銭債権化は、以上のような社会的意義の他にも、改正前民法において現物返還という考え方の下で生じていたさまざまな解釈問題を回避するという意義も持っています。

1例だけ挙げますと、改正前民法では、遺留分減殺請求権の対象となる財産を選択することができるかという論点がありました。設例に戻りますと、遺留分権利者であるBさんやCさんは、減殺請求権の対象になっている複数の財産、つまり甲不動産と預金のうちそのいずれかの特定の財産を選択しうるかという問題です。たとえば、Bさんが、不動産は不要なので、預金だけを対象にして2000万円の遺留分減殺請求権を行使したいと考えた場合に、それが可能かが問題になります。できないとするのが一般的な考え方でしたが、柔軟性に欠けるということで異論もありました。改正民法の下では、遺留分侵害額請求権の行使に基づいて金銭債権が発生するだけですから、そもそも財産を選択するという問題自体が生じないことになります。

 そのほかにもいくつかの解釈論上の論点がなくなりました。そのようなわけで、今回の金銭債権化には、法律関係の簡易化という意味もあるわけです。

【遺留分算定方式の見直し】

 以上のような遺留分侵害額請求権が認められる前提として、遺留分の侵害があることが必要です。そして、遺留分侵害の有無を判断するためには、各相続人の遺留分額を算定する必要があります。この算定方式に関しても、重要な改正が加えられました。

 まず、遺留分を算定するための基礎財産は、被相続人が相続開始時に有した財産の価額に贈与した財産の価額を加えそこから債務を控除して算定します(1043条1項)。これに各相続人の遺留分率(先に述べましたように、原則的には法定相続分の2分の1)を乗じると、各相続人の遺留分額が出てくるわけです。

 問題は、相続人に関してこの「贈与した財産」の範囲をどう見るかです。これを考える前提は、ある者からその相続人への財産承継は、死亡時=相続開始時の1点で見るのではなく、それ以前からの一連のプロセスにおいて見る必要があるということです。相続財産は、死亡時の財産よりも広いのです。このように考えますと、相続人に対する贈与は、それが相続分の前渡しの意味を持っている場合、つまりそれが特別受益である場合には、時期の如何を問わず、それが古いものであっても、基礎財産に算入すべきだということになります。相続人以外の者に対する贈与については、算入されるのは、相続開始前の1年間になされた贈与に限定される(1044条1項)のと比較しますと、相続人に対する贈与の扱いは、大きく異なるわけです。改正前民法の下で、この解決は、条文上は必ずしも明確ではありませんでしたが、判例によって認められていました。

 改正民法は、この考え方を大きく改め、相続人に対する特別受益でも、相続開始前の10年間になされたものに限って基礎財産への算入を認めました(改正民法1044条3項)。あまり古い贈与の算入を認めますと、受遺者・受贈者の法的地位を害するというのが改正の理由です。そのような配慮はそれなりに理解できます。しかし、特別受益は、基本的には、相続分の前渡しです。だからこそ、持戻しの対象になるわけです。それがどうして遺留分算定の基礎財産から排除されるのか、理論的には説明がなかなか難しい改正ではあります。

開始しました。相続人は、配偶者(妻)のBさん、子どものCさん、Dさんの3人です。Aさんは、自筆証書遺言を遺しており、それによれば、遺産のうち、AさんがBさんと居住していた甲不動産は「Bに相続させる」ものとされ、Aさんが所有していたもう1件の不動産である乙不動産は、生前に世話になったEさんに遺贈するものとされていました。また、遺言執行者として、知人の弁護士であるFさんを指定するものとされていました。

 以下、この設例に基づきながら、さらに設例を具体化して、今回の相続法改正によって、遺言執行者をめぐる法律関係がどのように整理されたかを見ていくことにしましょう。

【遺言執行者の法的地位の基本】

 公正証書遺言であれ自筆証書遺言であれ、遺言者にとっては、遺言の内容がきちんと実行されることが重要です。そのためには、信頼できる者に遺言の執行をお願いすることが有効な手段となるでしょう。そして、今回の相続法改正を主導した理念の1つである遺言活性化を進めるためには、この遺言執行者の法的地位が明確になっていることが重要な意味を持ちます。

 ところで、改正前民法は、遺言執行者の法的地位を「相続人の代理人とみなす」と規定していました(旧1015条)。本当は、遺言執行者は遺言内容の実現を任務とするわけですから、被相続人の代理人とするのが実態に合っています。しかし、被相続人はすでに死亡していますから、死者を本人とする代理関係を想定するわけにはいきません。そこで、実態と必ずしも合わないことは承知の上で、遺言執行者を相続人の代理人と定めたのです。もっとも、遺言執行者がその権限の範囲内で行った行為の効力は、相続人に帰属することとしなければなりませんので、その意味では、遺言執行者を相続人の代理人と構成することは、適切です。しかし、全体として、改正前民法においては、遺言執行者の法的地位が必ずしも明確でなかったことは事実です。

 改正民法は、上記の民法1015条を廃止するとともに、従来から必ずしも同条の文言にとらわれることなく認められていた次の2点を明文化しました。

 第1に、遺言執行者の一般的な権限について、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と規定されました(新1012条1項)。これによって、遺言執行者は、相続人の利益のために権限を行使するのではないことが明確になりました。改正前民法の下でも同様の考え方でしたが、先に示した民法旧1015条の文言の下では、誤解が生じる可能性もありました。改正民法は、そのような誤解の余地をなくしたわけです。

 第2に、遺言執行者が行った行為の帰属先について、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」と規定されました(新1015条)。旧1015条が持っていた合理的意味内容が承継され、明文化されたわけです。

【遺贈がある場合の法律関係】

設例A 上記の設例において、乙不動産の遺贈を受けたEさん(相続人ではない)が、その所有権移転登記手続を求めたいとします。Eさんは、誰を相手にその請求をすべきなのでしょうか。

(1)改正前民法の下での考え方

 相手となる候補者としては、相続人であるB、C、Dと、遺言執行者であるFとがいます。仮に遺言執行者Fがいませんと、遺贈の履行義務者は、相続人であるB、C、Dとなります。しかし、遺言執行者が存在するのであれば、遺言執行者を相手方にするのが適切であって、相続人を相手とするべきではありません。改正前民法の下でも、判例はそのように考えていました(最判昭和43年5月31日民集22巻5号1137頁)。

(2)改正民法の考え方

 改正民法は、先に述べましたように、遺言執行者が遺贈についてもその内容を実現するための一切の権利義務を有することを確認しました(新1012条1項)。したがって、遺言執行者であるFが遺贈履行の相手方になりうることは当然ということになります。改正民法はさらに、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができると規定しました(同条2項)。したがって、Eは、B、C、Dを相手に遺贈の履行を求めることはできません。いずれも、改正前民法の下でも認められていた解決ですが、改正民法は、その旨を明示し、法律関係を明確にしたわけです。

【「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)がある場合の法律関係】

設例B 上記の設例において、Aの遺言で甲不動産を「相続させる」ものとされているBが、甲不動産に関する所有権移転登記をしたいと思っています。遺言執行者Fには、この手続に関して何らかの権限が認められるでしょうか。

 「相続させる」旨の遺言は、公証人が公正証書遺言の実務の中から作り出してきた遺言条項です。しかし、今では、公正証書遺言に限定されず、自筆証書遺言でも活用されている遺言条項です。

(1)改正前民法の下での考え方

「相続させる」旨の遺言にどのような効果が認められるかについては、いろいろな議論の経緯がありました。現在では、この遺言条項の効力によって、Bに「相続させる」とされた不動産の所有権は、直ちにBに移転するとされていす。改めて遺産分割を行う必要はありません。「相続させる」旨の遺言には、遺産分割方法の指定の意味がありますので、遺産分割を行ったのと同様に、遺言の効力発生と同時に、その所有権の取得が認められるのです。としますと、「相続させる」旨の遺言には遺言執行の余地がないということになります。ですから、この点に関して、遺言執行者Fには何の権限も義務もありません。

もっとも、所有権移転登記手続を行うことについては、遺言の執行と認める余地もあります。しかし、「相続させる」旨の遺言に基づく権利の承継は、登記がなくても第三者に対抗することができるというのが、改正前民法の下での判例理論でした。このように考える場合には、所有権移転登記手続を行うことを遺言の執行だと認めることも、難しくなるでしょう。登記をする必要性が必ずしもないからです。

さらに、この登記は、所有権移転原因が相続ですから、Eの単独申請で行うことができるという点も指摘しておく必要があります。そのため、登記をする場合でも、登記は遺言執行とは関係がなく、遺言執行者Fには、登記をすべき権限もなければ義務もないということになります。改正前民法の下では、原則としては(例外もありました)このように考えられていました。

以上要するに、遺言執行者の権限は、「相続させる」旨の遺言については、きわめて限定されていたのです。

(2)改正民法の考え方

 改正民法においては、2点で上記の扱いが変更されます。

 第1は、法定相続分を超える権利承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとされたことです(新899条の2)。これによって、登記不要とされていた「相続させる」旨の遺言による不動産所有権承継についても、登記が必要ということになりました。これは、判例法理を変更する、きわめて重要な改正です。

 第2に、その上で、上記の対抗要件を備えるために必要な行為については、遺言執行者にそれをする権限があることが認められました(1014条2項)。これも従来の考え方を改める重要な改正です。

 改正民法はさらに、特定財産承継遺言の対象が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、その対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとともに、その払戻しの請求をすることを認めるものとしました。また、特定財産承継遺言の目的がその預貯金債権の全部である場合には、解約も認められます(以上、1014条3項)。払戻し請求などについては、これまでの実務の扱いを法律で認めるものです。

 改正民法は、遺言執行者が存在する場合には、遺言執行者に相続関係の公平な規律において大きな役割を期待しています。したがって、遺言執行者の権限についても、拡大する志向が見出されます。「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)についても、同様の志向が見出されます。

【相続人による遺言執行の妨害】

設例C 上記の設例において、相続人の1人であるDさんは、Eさんへの遺贈の対象になっている乙不動産について、遺言を無視し、遺産分割において自分が乙土地の所有権を承継したという書類を偽造して、自己名義で登記した。上で、Gさんに乙不動産を譲渡し、所有権移転登記も経由した。

(1)改正前民法の下での考え方

 遺贈による所有権取得は、登記をしないと第三者に対抗することができないというのが、改正前民法の下での判例法理です。他方で、改正前民法は、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」旨を定めていました(1013条)。そして、判例は、これに違反してなされた相続人の処分行為は無効だとしていました。したがって、設例のDさんの処分行為は無効ですので、遺贈によるEさんの乙不動産所有権の取得は保護されるわけです。

(2)改正民法の考え方

 改正民法は、従来の規定を維持するとともに(新1013条1項)、2項を新設して、違反行為が無効である旨を明示するとともに、無効をもって善意の第三者に対抗することができない旨を定めました(新1013条2項)。従来の判例法理による無効だけですと、取引安全を害することがあります。その点を考慮した改正です。「善意」だけで足り、「無過失」まで要求されないのは、第三者に遺言の有無に関する調査義務まで課すのは相当ではないからです。

 他方で、相続人の債権者は、遺言執行者がいても、その権利の行使を行うことができます(新1013条3項)。遺言等で遺言執行者が指定・選任されても、債権者の権利行使を制限する理由がないからです。

【遺言執行者の復任権】

 以上のほか、遺言執行者の復任権に関する改正があります

 改正前民法は、やむをえない事由がある場合に限って復任権を認めていました(1016条1項)。これに対して、改正民法は、遺言執行者は、原則として自己の責任における復任権を認められます(新1016条1項)。遺言による遺言執行者の指定の場合には、相続人の1人が指定されるなど、専門知識に乏しく適正な遺言執行が期待できない場合もあります。また、利益相反が心配される場合もあります。そのような場合に、広く復任権を認めて、弁護士などの専門家に実際の遺言執行を委ねることを可能にする趣旨の改正です。

 

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