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従業員の横領等と重加算税(連載第2回)

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3   従業員による横領等が発覚した場合

(1)  問題となる事例

 会社に対する税務調査の結果、考えたくないことですが、従業員が会社のお金を横領又は詐取していたというような不正が発覚することがあります。

 例えば、ある従業員が、外注先と通じて、実際には発注していない100万円の外注工事をあたかも発注したかのような虚偽の内容で請求書を発行してもらい、その請求書を経理担当者に提出して送金処理をさせ、外注先を経由して100万円を懐に入れていたとします。

(2)  従業員による横領等が発覚した場合の法人税への影響

 この場合、会社の当初の経理処理上は、

  外注費 100万円/普通預金 100万円

というような処理がなされており、当初申告では、外注費100万円が、法人税の計算上損金の額に算入されていると考えられます。
(消費税の問題も生じますが、本稿では、法人税の問題についてのみ言及します。)


 税務調査の結果、以上の不正が発覚すると、損金の額に算入した外注費100万円が架空であったことになるので、その100万円を損金の額から減額する必要があります。
 そうすると、その分だけ所得金額が増加し、増差税額が発生することになります。
 実際の事件では、このような不正が長期間にわたって反復継続し、金額が多額になっていることがあります

(3)  会社は横領等の被害を受けたのに所得が発生するのか?

 ところで、会社は、従業員にお金を詐取される被害に遭っているのだから、その分損失が発生し、所得金額は変わらないのではないかと思われるかもしれません。

 確かに、詐取された金額は、損失として損金の額に算入することになるのですが、会社が従業員などの会社内部の関係者から被害を受けた場合には、原則として、その従業員等に対する損害賠償請求権を資産として計上する処理を、同時にしなければならないというのが一般的な考え方です(ただし、常に同時に計上しなければならないというわけではなく、この点も問題となりうるところですが、本稿では省略します。)。

 損害賠償請求権を損失と同時に計上しなければならないとすると、修正仕訳は次のようになります。

  普通預金    100万円/外注費    100万円–外注費の減額
  雑損失(損金) 100万円/普通預金   100万円–詐欺損失の計上
  損害賠償請求権 100万円/雑益(益金) 100万円–損害賠償請求権の計上

 このように、詐取による損失と同額の益金の額が発生するため、結局、外注費100万円を損金の額から減額する分だけ、所得金額、ひいては法人税額の増加を免れないことになります。

(4)  重加算税が課される場合

 問題は、当初申告における外注費100万円の損金の額への算入が内容虚偽の請求書に基づくところ、外注先に内容虚偽の請求書を発行させる行為は、税額の計算の基礎となる損金の額について事実を仮装する行為であるといわざるを得ないため、外注費100万円を損金の額から減額することによる増差税額について、重加算税が課される場合があるということです。

 上記のとおり、重加算税が課されるのは、「納税者」が税額の計算の基礎となる事実についての隠蔽・仮装の行為をした場合ですが、従業員が外注先に内容虚偽の請求書を発行させた行為が、納税者である会社による仮装行為と認定される場合があり、このような場合に重加算税が課されることになるのです。

(5) 会社に対する大きな打撃

 この場合、会社は、詐欺被害に遭ったばかりでなく、その詐取による損失分を所得として課税された上、さらに重加算税をも課され、最悪の場合には青色申告承認まで取り消されるという三重・四重の打撃を受けることになります。

 会社は横領・詐欺の被害を受けた立場にあるにもかかわらず、その加害者である従業員の行為をもって、会社が不正行為をしたものと認定されて重加算税の制裁を受けるというのは、感覚的には納得しがたいところですが、従業員の行為が会社の行為として認定できる限り、会社が横領・詐欺の被害者の立場にあるというだけでは、重加算税を免れることができないという取扱いは、実務上ほぼ確立しています。

 

従業員の横領等と重加算税(連載第1回)
従業員の横領等と重加算税(連載第2回)
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従業員の横領等と重加算税(連載第5回)

 

弁護士 藤野寛之

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